低気圧の気象衛星画像を見る
予報士の勉強をしていると、雲の学習は雲の種別(積乱雲、層雲など)を見分けるぐらいでとどまってしまいます。
これはもちろん大事な技術ですが、気象衛星画像で雲を見るときは、まず総観規模で雲域を見ることが大切だと言われます。
ざっくり言えば、経度線・緯度線のひとマス程度以上にわたる単位で雲を見るということです。今回はそんな目線で雲を追いかけてみます。
後ほどの衛星画像の説明で出てくる雲パターンを簡単にまとめておきます。
トラフ前面では暖気移流があるため、雲が寒気側に高気圧性の曲率を持って膨らんだ形状をバルジと言います。バルジ(bulge)とは英語で「膨らみ」を意味します。
ローマ字で使うコンマの形をした雲をコンマ状の雲と言います。
狭義には、低気圧の後面に発生する寒気場内低気圧(ポーラーロウ)が作る雲形を「コンマ状」と言いますが、後ほどの画像で見るように大きなスケールでもコンマ状は発生します。
雲がフックの形状(アルファベットのJの文字の形)をしたものをフックパターンと呼びます。
実際には曲率の変曲点(低気圧性循環から高気圧性循環に変わる点)があり、ここを「フック」と呼びます。
画像の左肩に日時に続いて「可視」とあるのは可視画像、「水蒸気」は水蒸気画像、特に記載がないものは赤外画像です。
【11月7日9時】

黄河上流の北(北緯40度、105度付近)に高気圧性循環の盛り上がりが見えています。バルジっぽいです。
【11月7日21時】

盛り上がりが明瞭になってきました。
谷になっているところ(画像からは切れています)は、トラフに対応しています。
参考書などには「バルジの曲率の変曲点(フック)周辺に低気圧が存在する」と書かれています。
しかし今回のケースでは、トラフ前面の長江付近に低気圧(黄色い星印)ができていますが、この時点ではバルジとのつながりはありません。
水蒸気画像でも見ておきます。

東経110度よりも西側で明域と暗域がはっきりしたバウンダリーがあり、トラフの軸がありそうです。
500hPaの実況図でも確認しておきます。

やはりトラフが確認できます。
同じ気象要素でも、いろんな天気図を用いて複合的に確認することが大切です。
【11月8日9時】

雲域がまとまり始めています。
【11月8日21時】

この時刻から、天気図上では閉塞前線になりました。画像では暗域が増えてきたので、後面から乾燥した寒気が入り込み始めたことが分かります。
地上天気図で閉塞前線を見ておきましょう。

次に、700hPaの乾燥状況を確認しておきます(8日9時イニシャルのFT=12)。

T-Td<3の湿潤域が雲域とほぼ一致し、その後面に乾気が入っています。
【11月9日9時】

雲域はコンマ状の形状を示しています。コンマ先端部の巻き込んでいる部分はフックになっていて、ここに地上低気圧の中心が位置します。このとき、地上低気圧の中心は996hPaで、もっとも発達しています。
この雲の色は画像状の他の雲域と比べて非常に白いので、上層の雲だと分かります。
こちらは可視画像です。

11月の朝9時だとまだ太陽の高度が低くて写りが暗めになっていますが、コンマの内側部分に凹凸が見られます。
さらに、この時の雨の状況を示すレーダーエコーです。

レーダーが設置されていない海上のエコーは見えませんが、エコーの形状は概ね雲の形状と一致してそうです。
寒冷前線が通過している関西、四国地方では、対流性のエコーも見られます。
こちらも700hPaの乾燥状況を確認しておきます(8日21時イニシャルのFT=12)。

こちらは同時刻の地上天気図です。

沿海州付近に低気圧があり、寒冷前線が日本海中部から四国を経て沖縄までのびています。
【11月9日21時】

雲域が崩れ始めました。地上低気圧の中心気圧は1002hPaです。
【11月10日9時】

地上低気圧の中心気圧は1010hPaです。
【11月10日21時】

ここまで追っかけてきた雲は完全に形が崩れ、中層の雲が主体になってきました。
華北には次のトラフが進んできて、これによる雲域が発生しています。
地上天気図を見てみます。

地上低気圧の中心気圧は1012hPaです。地上天気図に前線が描かれなくなりました。
学生時代に数学の問題を解くとき、問題集の後ろにある解答をまず見てから「でもどうやって解いたら良いか、分かんないなー」ということをやっていました。これでは成績が上がるはずもありません(恥)。
気象衛星画像は、気象現象がそこに現れているという意味では「解答」です。学習の初期段階では、この正解からスタートするというのはアリだと思います。
特徴のある雲域は天気図を解析するときの着目点を示してくれているので、効率良く天気図を見ることができます。
それに慣れてきたら答えを予測する、すなわち天気図からこの先の天気を予測する練習をしていけば良いのです。
雲は大気の状態を教えてくれる貴重なシグナルです。毎日天気図と雲画像を見比べて、雲域を見るだけでその成因を予測できるようになることを目指しましょう!

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これはもちろん大事な技術ですが、気象衛星画像で雲を見るときは、まず総観規模で雲域を見ることが大切だと言われます。
ざっくり言えば、経度線・緯度線のひとマス程度以上にわたる単位で雲を見るということです。今回はそんな目線で雲を追いかけてみます。
低気圧に関する雲域
後ほどの衛星画像の説明で出てくる雲パターンを簡単にまとめておきます。
バルジ
トラフ前面では暖気移流があるため、雲が寒気側に高気圧性の曲率を持って膨らんだ形状をバルジと言います。バルジ(bulge)とは英語で「膨らみ」を意味します。
コンマ状
ローマ字で使うコンマの形をした雲をコンマ状の雲と言います。
狭義には、低気圧の後面に発生する寒気場内低気圧(ポーラーロウ)が作る雲形を「コンマ状」と言いますが、後ほどの画像で見るように大きなスケールでもコンマ状は発生します。
フック
雲がフックの形状(アルファベットのJの文字の形)をしたものをフックパターンと呼びます。
実際には曲率の変曲点(低気圧性循環から高気圧性循環に変わる点)があり、ここを「フック」と呼びます。
2018年11月の事例
画像の左肩に日時に続いて「可視」とあるのは可視画像、「水蒸気」は水蒸気画像、特に記載がないものは赤外画像です。
【11月7日9時】

黄河上流の北(北緯40度、105度付近)に高気圧性循環の盛り上がりが見えています。バルジっぽいです。
【11月7日21時】

盛り上がりが明瞭になってきました。
谷になっているところ(画像からは切れています)は、トラフに対応しています。
参考書などには「バルジの曲率の変曲点(フック)周辺に低気圧が存在する」と書かれています。
しかし今回のケースでは、トラフ前面の長江付近に低気圧(黄色い星印)ができていますが、この時点ではバルジとのつながりはありません。
水蒸気画像でも見ておきます。

東経110度よりも西側で明域と暗域がはっきりしたバウンダリーがあり、トラフの軸がありそうです。
500hPaの実況図でも確認しておきます。

やはりトラフが確認できます。
同じ気象要素でも、いろんな天気図を用いて複合的に確認することが大切です。
【11月8日9時】

雲域がまとまり始めています。
【11月8日21時】

この時刻から、天気図上では閉塞前線になりました。画像では暗域が増えてきたので、後面から乾燥した寒気が入り込み始めたことが分かります。
地上天気図で閉塞前線を見ておきましょう。

次に、700hPaの乾燥状況を確認しておきます(8日9時イニシャルのFT=12)。

T-Td<3の湿潤域が雲域とほぼ一致し、その後面に乾気が入っています。
【11月9日9時】

雲域はコンマ状の形状を示しています。コンマ先端部の巻き込んでいる部分はフックになっていて、ここに地上低気圧の中心が位置します。このとき、地上低気圧の中心は996hPaで、もっとも発達しています。
この雲の色は画像状の他の雲域と比べて非常に白いので、上層の雲だと分かります。
こちらは可視画像です。

11月の朝9時だとまだ太陽の高度が低くて写りが暗めになっていますが、コンマの内側部分に凹凸が見られます。
さらに、この時の雨の状況を示すレーダーエコーです。

レーダーが設置されていない海上のエコーは見えませんが、エコーの形状は概ね雲の形状と一致してそうです。
寒冷前線が通過している関西、四国地方では、対流性のエコーも見られます。
こちらも700hPaの乾燥状況を確認しておきます(8日21時イニシャルのFT=12)。

こちらは同時刻の地上天気図です。

沿海州付近に低気圧があり、寒冷前線が日本海中部から四国を経て沖縄までのびています。
【11月9日21時】

雲域が崩れ始めました。地上低気圧の中心気圧は1002hPaです。
【11月10日9時】

地上低気圧の中心気圧は1010hPaです。
【11月10日21時】

ここまで追っかけてきた雲は完全に形が崩れ、中層の雲が主体になってきました。
華北には次のトラフが進んできて、これによる雲域が発生しています。
地上天気図を見てみます。

地上低気圧の中心気圧は1012hPaです。地上天気図に前線が描かれなくなりました。
最後に
学生時代に数学の問題を解くとき、問題集の後ろにある解答をまず見てから「でもどうやって解いたら良いか、分かんないなー」ということをやっていました。これでは成績が上がるはずもありません(恥)。
気象衛星画像は、気象現象がそこに現れているという意味では「解答」です。学習の初期段階では、この正解からスタートするというのはアリだと思います。
特徴のある雲域は天気図を解析するときの着目点を示してくれているので、効率良く天気図を見ることができます。
それに慣れてきたら答えを予測する、すなわち天気図からこの先の天気を予測する練習をしていけば良いのです。
雲は大気の状態を教えてくれる貴重なシグナルです。毎日天気図と雲画像を見比べて、雲域を見るだけでその成因を予測できるようになることを目指しましょう!

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